【千歳学ことはじめ vol.17】社会と科学と自然

Date:2019.06.03

【千歳学ことはじめ vol.17】社会と科学と自然

今、人類は、新しい地質時代に突入しようとしている。38億年前の太古代(始生代)と呼ばれる地質中の微生物の化石、5億年前の古生代カンブリア紀の多種多様な化石(カンブリア爆発)、中生代白亜紀の恐竜の絶滅、新生代第四紀更新世(250万年前)のヒト属の出現など、地質には様々な生命活動の痕跡が残されている。地質学では、氷河期が終わった1万1700年前から現在までを新生代第四紀完新世と称している。

最近、プラスチック海洋汚染の報道を聞かない日はない。世界のプラスチック生産量は、1950年の200万トンから2015年には3億8000万トンへと、指数関数的に増大している。このような増大は、グレート・アクセラレーションと呼ばれ、人口、エネルギー消費量、二酸化炭素濃度、地表温度、海洋酸性化、などにおいても指摘されている。

化石資源に依存する人間活動がもたらしたグレート・アクセラレーションが、地質学的な変化をもたらすという議論がある。オゾンホールの研究でノーベル化学賞を受賞したマインツ大学のパウル・クルッツェン教授は、完新世はすでに終了し、コンクリートやプラスチック、核実験による放射性降下物など、科学技術の痕跡が地層に残る“人新世”(アントロポセン)が始まっていると提唱した。これは、科学至上主義への警鐘でもある。

食料、資源、エネルギー、環境など、現代社会が抱える喫緊の問題は科学技術だけで解決するのは不可能である。社会と科学が対話し一緒に解決する、トランス・サイエンスという考え方が不可欠だ。「オープンサイエンスパーク千歳」は地域社会と科学技術の対話の場であり、千歳の自然と歴史を学び未来を考えるのが千歳学である。身の回りにこそ、未来へのヒントが隠れているのだ。

 

公立千歳科学技術大学 特任教授 下村政嗣
出典:千歳民報コラム「ゆのみ」(2019年5月29日号)
※この記事は千歳民報社の許可のもとに転載しております。